【薬剤師視点でみる】育児中の身体の疲れに!シャクティマット(指圧マット)の効果と使い方・注意点

薬・健康

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抱っこや授乳、夜間の対応、おむつ替えなど、育児中は同じ姿勢を繰り返す機会が多く、肩・首・腰などに負担を感じることがあります。

しかし、育児中はマッサージや整体などに定期的に通う時間を確保しにくいものです。そのため、自宅で使用できるセルフケア用品の一つとして、スパイク状の突起が多数配置されたシャクティマット(Shakti Mat)のような指圧マットに関心を持つ人もいるでしょう。

この記事では、シャクティマットを含む「アキュプレッシャーマット(指圧マット)」について、公開されている臨床研究と製造元の注意事項をもとに、期待できることと、現時点では断定できないことを整理します。

この記事の結論

  • アキュプレッシャーマットについて、痛みや主観的なストレスなどの改善を報告した小規模な研究があります。
  • その一方で研究数はまだ少なく、マットによって「疲労が取れる」「睡眠が改善する」といった効果が医学的に確立したとはいえません。
  • 慢性腰痛を対象とした研究では、運動療法にマットを追加したグループで改善が報告されていますが、マット単独の効果を証明したものではありません。
  • 妊娠中、抗凝固薬を使用している方、出血・凝固異常、てんかん、感覚低下を伴う神経障害、皮膚障害、心血管疾患などがある場合は、使用前に医師や薬剤師へ相談することが推奨されます。

シャクティマットとは?

シャクティマットは、多数の小さな突起(スパイク)が配置されたアキュプレッシャーマットの一種です。鍼(はり)のように皮膚へ針を刺すものではなく、突起を皮膚に接触させて圧刺激を加える構造になっています。

現在のシャクティマット公式製品情報では、スパイク部分にABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂が使用されています。製品によって素材や内部構造は異なるため、「すべての指圧マットが同じ素材」という意味ではありません。

また、本製品は「医療機器」として治療を行うものではありません。公式情報でも、一般的なリラクゼーション・ウェルネス用途の製品として説明されています。

どのような作用が考えられている?

スパイクによる刺激によって、最初は強い圧迫感や痛みを感じ、その後に温かさやリラックス感を覚える人がいます。

その生理学的な理由として、痛みの研究で知られているゲートコントロール理論で説明されることがあります。

ゲートコントロール理論とは、脊髄における「触覚の伝達」と「痛みの伝達」の相互作用によって、脳へ伝わる痛みが調節されるという考え方です。ただし、現在の疼痛科学では神経回路はより複雑であることが分かっており、単純に「刺激すれば脳への痛みが完全に遮断される」と説明することは適切ではありません。

さらに重要なのは、ゲートコントロール理論そのものが、シャクティマットの臨床的な治療効果を証明するものではないという点です。あくまで、痛みが和らぐように感じるメカニズムの仮説の一つと考えるのが適切です。

臨床研究では何が分かっている?

アキュプレッシャーマットについては、いくつかの小規模な臨床研究が行われています。しかし、対象者の数や使用方法が研究ごとに異なり、現時点で「確立した治療法」と評価できるほどのエビデンス(科学的根拠)はありません。

① 2011年の研究:首・腰の痛みを対象とした小規模な臨床試験

首または腰に筋緊張性の痛みがある36人を対象に、スパイクマットを1日15分、3週間使用するグループと、使用しないグループを比較しました。

その結果、「最も痛みが強い時の痛みの度合い」については有意な減少が認められました。一方で、通常時の痛み、不安、抑うつ、ストレス、睡眠の質などについては明確な効果は確認されませんでした。

研究者自身も、これはあくまで試験的な研究であり、安全性の検証を含めたさらなる調査が必要だと指摘しています。

② 2021年の研究:慢性腰痛に対する運動療法との併用

慢性腰痛を持つ44人を対象に、治療のための運動のみを行うグループと、運動に加えてアキュプレッシャーマットを追加したグループを比較しました。

マットを追加したグループでは、痛みの評価項目でより良い改善が報告されました。

ただし、両グループとも運動療法を受けている点が重要です。この研究から「シャクティマット単独で慢性腰痛が改善する」と結論づけることはできません。

③ 2024年の研究:健康な若年者では「マット特有の上乗せ効果」は確認されず

健康な若者を対象に、アキュプレッシャーマットを使用してリラックスするグループと、マットを使用せずにリラックスするだけのグループを3週間比較しました。

両グループともに主観的なストレスの改善がみられましたが、マットを使用したグループが、使用しなかったグループを上回る明確な効果は確認されませんでした。血圧や心拍数、痛みの感じやすさにも変化はありませんでした。

この結果は、「マットそのものの効果」と「時間を確保して横になり、リラックスすること自体の効果」を区別するうえで非常に重要です。

研究発表年 対象者 使用条件 主な結果
2011年 36人
首・腰の筋緊張性疼痛
15分/日、3週間 最悪時の痛みは減少。通常時の痛みや睡眠の質等に差はなし。
2021年 44人
慢性腰痛
運動療法+マット
60分/日
痛みの評価で改善。ただしマット単独の効果は検証していない。
2024年 健康な若年者 3週間のリラクゼーション 両群でストレス改善。マット特有の上乗せ効果は確認されず。

現時点で最も妥当な見解は、「一部の研究で痛みの軽減やリラックス効果が報告されているものの、研究数が少なく、特定の疾患に対する治療効果や睡眠改善効果が確立しているわけではない」というものです。

「血流が良くなる」という表現には注意

指圧マットの広告などで「血流改善」「循環を促進する」といった表現を見かけるかもしれません。しかし、マットを使用することで医学的に意味のある血流改善が得られることを明確に証明した研究は限られています。

2024年の研究でも、血圧や心拍数などの生理学的な数値に変化は確認されませんでした。そのため、「血流が改善する」と断定するのではなく、「ポカポカとした温かさなどのリラックス効果を感じる場合がある」と考えるのが、現在の研究結果に適しています。

育児中に使うなら、どのような場面が考えられる?

育児中の肩・腰などの疲労に対して、シャクティマットを「治療」ではなく、リフレッシュを目的としたセルフケア用品として取り入れることは一つの選択肢です。

  • 肩・背中:マットの上に仰向けになり、肩や背中を刺激する。
  • 腰:無理のない姿勢で仰向けになり、腰部をマットに預ける。
  • 足裏:座った状態で足裏を軽く接触させる。
  • 就寝前:短時間横になり、呼吸を整えるなどリラックスする時間として利用する。

ただし、これらは一般的なセルフケアの例であり、特定の症状を治すものではありません。

初めて使うときのポイント

公式情報では、初めはベッドや柔らかい床に置いて使用し、刺激に慣れるまでは薄手のTシャツなどを着て使用する方法が推奨されています。慣れてくれば、皮膚とスパイクを直接接触させて20分程度使用する方法も紹介されています。

なお、研究で使用された時間は一律ではありません(15分〜60分)。「〇分が医学的に最適」という正解はないため、自分の心地よい範囲で使用しましょう。

初めて使用する場合の注意

  • 最初から長時間使用せず、自分の体が刺激に耐えられるか短時間から確認する。
  • 刺激が強すぎる場合は、薄手の衣服を着たまま使用する。
  • 強い痛み、出血、皮膚の損傷、めまい、気分不良などがあれば直ちに使用を中止する。
  • 使用中に眠り込まないよう、スマートフォンのタイマーなどを利用する。
  • 乳幼児がいるご家庭では、使用後にスパイク部分を含めて子どもの手が絶対に届かない場所に保管する。

使用を避ける、または事前に医療専門家へ相談したいケース

シャクティマットの公式情報では、以下のような状態では使用を避ける、または医療専門家へ相談するよう案内されています。

状態 対応
妊娠中 メーカーは推奨していません。希望する場合は産婦人科医へ相談してください。
抗凝固薬の使用・凝固異常 メーカーは推奨していません。皮膚への強い圧刺激による損傷・出血リスクがあるためです。
てんかん 使用中に発作が起きた場合、鋭い突起による外傷の危険があるため使用は控えてください。
感覚が低下している神経障害 刺激や皮膚損傷を自覚しにくくなる可能性があるため、使用を避けることが推奨されます。
皮膚炎、傷、強い炎症など 該当部位への使用は避けてください。
心血管疾患・血栓性静脈炎 メーカーは推奨していません。自己判断せず主治医に相談してください。
発熱・急性疾患 体調が回復するまで使用を控えることが推奨されています。

なお、「高血圧だから絶対に使用できない」と一律に判断する根拠は確認できません。しかし心血管疾患についてはメーカーが注意を喚起しているため、通院・治療中の方は主治医に確認するのが最も安全です。

シャクティマットと薬の関係

シャクティマットは医薬品ではないため、肩こりや腰痛に対して薬の代わりになるものではありません。

特に、痛みが長期間続く場合、痛みが急激に悪化した場合、しびれや筋力低下を伴う場合は、セルフケアだけで様子を見るのではなく、医療機関で原因を確認することが重要です。

また、痛み止めなどの薬を服用している場合も、マットを使用し始めたからといって自己判断で薬を減らしたり中止したりしないでください。治療薬の変更は、必ず医師または薬剤師に相談しましょう。

製品を選ぶときに確認したいポイント

アキュプレッシャーマットには複数のメーカーや製品があります。購入する場合は、広告上の「効果」だけでなく、次の点を確認するとよいでしょう。

  • スパイクの材質:材質や安全性に関するメーカー情報が明確か。
  • 生地・内部素材:素材表示やアレルギーに関する情報が確認できるか。
  • 強度の選択:刺激の異なるモデル(初心者向けなど)が用意されているか。
  • 清掃方法:カバーやスパイク部分を衛生的に保てるか。
  • 保管方法:乳幼児やペットが誤って触れないよう安全に保管できるか。
  • 返品・保証:刺激が自分に合わなかった場合の返品・交換条件はどうなっているか。

なお、現行のシャクティマット公式製品では、モデルによってGOTS認証オーガニックコットン、ABSスパイク、ラテックス系素材などが使用されています。製品によって仕様が異なるため、購入時には必ず製品ページの表示を確認してください。

まとめ:育児中のセルフケアとして考えるなら

育児中の身体の疲れには、特定の器具だけに頼るのではなく、可能な範囲で睡眠や休息の確保、姿勢や抱っこの方法の見直し、適度な身体活動、必要に応じた医療機関への相談などを組み合わせることが大切です。

シャクティマットを使う場合も、「痛みを治す医療器具」と考えるより、短時間横になって自分の身体を労わるためのリラクゼーション・アイテムの一つと位置づける方が、現在確認できる科学的根拠には合っています。

無理に長時間使用せず、皮膚や体調の変化を確認しながら、リフレッシュの時間として上手く活用してみてください。

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この記事で確認したポイント

  • シャクティマットは医薬品・医療機器として治療を行うものではありません。
  • 一部の小規模研究では痛みの軽減が報告されていますが、睡眠改善や疲労回復などは確立した効果とはいえません。
  • 持病、妊娠、服薬状況によっては使用前に医師や薬剤師への相談が必要です。
  • 育児中のリフレッシュ目的として、安全に配慮しながら短時間から試すのがおすすめです。

参考文献・情報源

  • Kjellgren A, Erdefelt K, Werngren L, Norlander T. Does relaxation on a bed of nails (spike mat) induce beneficial effects? A randomized controlled pilot study. Alternative Medicine Studies. 2011;1(1):e5. DOI: 10.4081/ams.2011.e5.
  • Frizziero A, Finotti P, La Scala C, Morone G, Piran G, Masiero S. Efficacy of an Acupressure Mat in Association with Therapeutic Exercise in the Management of Chronic Low Back Pain: A Prospective Randomized Controlled Study. Applied Sciences. 2021;11(11):5211. DOI: 10.3390/app11115211.
  • Kisker J, Schöne B. Regular use of acupressure mats reduces perceived stress at subjective but not psychophysiological levels: Insights from a three-week relaxation training. Applied Psychology: Health and Well-Being. 2024;16(1):338-355. DOI: 10.1111/aphw.12490.
  • Basbaum AI, Bautista DM, Scherrer G, Julius D. Cellular and molecular mechanisms of pain. Cell. 2009;139(2):267-284.
  • Shakti Mat公式製品情報・FAQ。

本記事は、公開されている研究論文およびメーカー公開情報をもとに作成した情報提供記事です。特定の疾患の診断、治療、予防を目的とするものではありません。痛みが強い場合、長期間続く場合、しびれ・筋力低下などを伴う場合、または持病や服薬について不安がある場合は、医師・薬剤師などの医療専門家にご相談ください。

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