「薬は引き出しの中に入れておけば大丈夫」「期限が少し過ぎても使えるでしょ」と、そんな思い込みが、薬の効き目を大きく損なうことがあります。
薬は光・熱・湿度に敏感な化学物質です。保管条件が不適切だと有効成分が分解・変質し、主に期待した効果が得られなくなったり、まれに有害な変性物質が生じたりすることがあります。
本記事では、薬剤師の立場から「薬の種類別保管条件」「使用期限の正しい考え方」「よくある保管ミスとその対策」を解説します。
※薬物治療における最終的な決定は自己判断だけで行わず、医師または薬剤師などの医療従事者と相談しながら進めるようにしてください
薬の保管条件
薬の保管条件は、添付文書と呼ばれる医薬品の取扱説明書に必ず記載されています。日本では医薬品医療機器法(薬機法)第52条に基づき、製薬企業は添付文書の作成・配布が義務付けられています。
薬が開発される中で、各保管条件下のもと、どのくらいの期間で薬の含有量や硬度などに変化があるのか?などを確認する試験が行われ、その情報を元に保管条件が決定されます。
温度に関わる条件
まず気をつけるべきで比較的容易に管理できる「温度」の条件について確認していきましょう。
室温保管
室温とは1〜30℃の範囲を指します。多くの薬はこの保管条件が設定されていますが、安定性試験のうち長期試験では主に25℃条件で評価されています。安定性を確認する加速試験では温度の条件として40℃で行っているものもありますが、最近では夏に外気温が40℃近くに上昇するこども少なくありません。冷房を付けない部屋などに保管することは保管条件の温度を超える可能性があるため注意が必要かもしれません。また冬場においては暖房器具の近くに保管するのは避けましょう。
冷所保管
日本薬局方では冷所保管は1〜15℃と定められていますが、実際の製剤では2〜8℃ とより狭い範囲に定められているものが多いです。インスリン(未開封)・点眼薬・坐薬の一部・生物学的製剤などがこの保管条件となっています。保管温度が低いため、凍結に注意が必要です。
長期の保管において冷所保管が必要とされている薬でも開封後は室温保管が可能になるものもあります。
冷蔵庫の冷蔵室が最も保管しやすい場所だと思いますが、冷気の吹き出し口の近くなどは凍結する恐れがあるので避けるようにしましょう。
遮光保存
光に当たることで変質してしまう薬もあります。フロセミドという利尿剤やメコバラミンというビタミン剤などは遮光保管が必要です。
このような薬は薬のシートに遮光の工夫がされている場合も多く、シートから取り出さずに保管することである程度光の影響は少なくすることができますが、光の当たらない引き出しなどにしまっておくことが望ましいでしょう。
相対湿度
温度、湿度の他に気をつけることとして湿度があります。基本的には台所、洗面所、風呂場など水回りの近くは避けて保管するようにしましょう。乾燥剤が付いている場合、薬がなくなるまでは乾燥剤は捨てずに薬と乾燥剤をセットで保管するようにしてください。
薬の使用期限
使用期限とは食品でいう消費期限のようなもので、医薬品が有効で安全に使える期間を示したものです。
薬の使用期限は製造された段階では3年程度となっている場合が多いですが、製剤ごとに異なる点には注意が必要です。
これは未開封の状態で適切に保管された場合であるということにも注意が必要です。通常、薬は製薬工場から出荷されて医薬品卸業者が仲介して病院や保険薬局などの医療機関へ届きます。
医薬品卸業者や医療機関では定められた保管方法で管理をして、医薬品が使用期限まで有効で安全な品質が保てるようにしています。
処方された薬が手元に渡る際には製造から数ヶ月から数年経っていることも少なくありません。そのため、もらった時点で何年も期限があるとは思わないようにしてください。
基本的に処方された薬は何年も取り置いておくことを想定していません。頓服の薬などで長期間取り置く可能性がある場合、受け取る際に目安を確認しておくといいでしょう。
使用期限の目安
処方された薬は処方された日数の間に飲み切ることが基本です。とはいえ、災害が起こった際に薬がすぐにもらえなくなる状況に陥る可能性があるため1週間分程度は備蓄しておくことが推奨されています。
薬の使用期限の目安を種類別に紹介していきます。
※具体的な使用期限は医薬品ごとに異なるため、添付文書または薬剤師への確認が必要です
箱から出した状態のままの薬
箱から取り出しただけで、中の包装から取り出していない錠剤、カプセル剤、粉薬などは約半年〜1年以内であることが多いとされています。
医療機関で分包された薬
医療機関では錠剤を一包化したり、粉薬を分包したりと薬が出荷された包装から薬を取り出して加工することがあります。そのようなものは約3ヶ月程度が目安となりますが、温湿度や薬剤の性質によって大きく変化する可能性もあります。
シロップなどの水薬
医療機関から提供されるものは通常、投薬瓶と呼ばれる透明な容器に必要分を移されたり、複数の薬が混ぜられたものです。水分を含んでおり、雑菌の繁殖が起こりやすいため冷蔵庫に保管した上で処方日数内に使い切るようにしましょう。
未開封の外用薬(点眼薬、点鼻薬、塗り薬など)
本体に使用期限が記載されています。
開封済みの点眼薬、点鼻薬
粘膜に直接使用するものであり、雑菌の繁殖があった場合の影響が比較的大きいため、1ヶ月以内が目安と考えるといいでしょう。しかし、製剤によってはより短いものもあるため注意が必要です。
開封済みの塗り薬(軟膏、クリームなど)
前提として直接手で触れて採取をしないことです。直接手で触ると汚染のリスクが高まります。その前提下では3ヶ月ほどは使用可能と考えられます。
自己注射薬、吸入薬
インスリンをはじめとした自己注射薬や吸入薬は開封後の期限が定められているものが多いため、薬剤師に確認しておくことが正確です。
これまでに述べたものは『もしも残薬があった際の目安』であり、『適切に保管された場合』であることが前提です。
少なくとも薬は受け取った日から半年以上も放置されることを前提とされていません。使用期限が明確でなければ上記を目処に廃棄することが望ましいでしょう。処方の終了日から数ヶ月経過した医薬品を使用する際も受け取った医療機関や薬局に確認することを推奨します。
また、処方された薬である場合、その時の症状を元に出された薬であることに注意が必要です。
同じように感じた症状であっても時が経過していた場合、その薬がその症状に適切かどうかはわからないのです。数ヶ月経過した後に残った薬を使用できるかについて自己判断せずに医師または薬剤師に確認するようにしましょう。
NGな保管とは?
よくある保管場所について、なぜNGなのか?これまでに紹介した不適切な保管場所以外のNGな保管場所について、その理由も合わせて見ていきましょう。
車のダッシュボード
日中仕事で車を使用していたり、休みの日の外出する際に車を利用する際、車に薬を持ち込むことがあります。その際、特に気をつけるべきはダッシュボードです。時に70℃を超える温度になることがあるため、薬に与える影響は測りかねません。
シートから取り出す
シートから取り出した状態でピルケースに移して1回分ごとにまとめている方を見かけることがありますが、保管という観点で言えば光や湿度の影響を受けやすい状態になります。そのため、受け取った段階から大きく使用期限が短くなる可能性があります。
また、薬をシートから取り出すことで何の薬かの判別が難しくなり、飲み間違いのリスクなども増してしまいます。
基本的にはシートから取り出さずに保管することが大切です。
過剰な残薬問題
これは重要なことですが、薬はその時の症状にあったものが選ばれるものなので、特に処方される薬については年単位で自宅などで保管されることを想定されていないことがほとんどです。
薬を指示通りに使っていれば、薬の使用期限を気にするほどの残薬が発生することはないのです。
厚生労働省の中医協資料によると飲み残しの薬を金額換算した場合、全国での合計は年間で約500億円規模になると言われています。それだけ、医薬品費が無駄になっている可能性があるということです。
古い薬が今の状態にあっているのかは自己判断では不十分となる可能性があります。残薬として使用できるかは医師や薬剤師に確認することが望ましいです。
古い薬が溜まっていくという状況は望ましいことではありません。飲み忘れなどで薬が余ったり、頓服の薬をほとんど服用せずに余ってる場合には受診時に申し出るようにしましょう。少なくとも薬剤師に伝えることで残薬を使用できるように調整することを検討してもらえます。
特に飲み忘れてがある場合、それを伝えることで治療評価の誤認識の是正や用法の適正化に繋げることができます。また、残薬が出る可能性を減らすということは無駄な医薬品費を抑えることにも繋がります。
さいごに
本記事は、一般的な医療・薬学情報の提供を目的としています。
実際の治療や服薬については、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
出典・引用元
厚生労働省『第十八改正日本薬局方』通則
公益社団法人 日本薬剤師会『Q&A くすりと健康』
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)『医薬品の安定性試験ガイドライン』
厚生労働省 中央社会保険医療協議会(中医協)総会資料
厚生労働省『災害時に備えた医薬品の適切な保管・携帯について』

